「ここで止めたらこれまでの努力が無駄になる」
このようなある種の呪縛にハマって、結果的に大きく損してしまったという経験がある人は少なくないのではないでしょうか。
実は、これにはマーケティングでもよく活用されているある種の心理作用が関係しています。
ここでは「これまでの努力やコストを無駄にしたくない」という心理作用であるサンクコスト効果の意味や、それを逆手に取ったマーケティングでの活用方法について解説します。
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サンクコスト効果とは?
サンクコスト効果とは、すでに費やした時間やお金、労力といった埋没費用(=サンクコスト)を無駄にしたくない、元を取りたい、と考える人間の心理作用を指します。
例えば、以下のような例が思い当たるかもしれません。
- ギャンブルで負けている、これまでのコストを取り返すまでは止められない(金銭的サンクコスト)
- この本、つまらないけど、ここまで読んだから、最後まで読んでしまおう(労力的サンクコスト)
- 遠出した際、時間をかけて来たから、何か記念に買って帰ろう(時間的サンクコスト)
最近の例で言えば、コロナの影響にもかかわらずオリンピックを強行したのも、サンクコスト効果の一例と言えるかもしれません。
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コンコルド効果とも呼ばれる
サンクコスト効果は別名、コンコルド効果とも呼ばれます。
コンコルドとは、1962年にイギリスとフランスの共同開発によって作られた「音速を超える飛行機」、通称コンコルドという飛行機の名前です。
両国は膨大なお金と時間、そして労力を投資して実際に旅客機を開発しました。
しかし、離着陸できる空港の数が限られている、たくさんの客を一度に乗せられないという理由から、出荷台数が予定を大幅に下回り、結果的に大赤字が出てしまいプロジェクトは解散しました。
コンコルドの場合、開発途中の段階においてすでに大幅な赤字が見込まれていましたが、すでに費やした3つのサンクコストを回収したいという想いから、負け戦と分かっていつつもなかなかプロジェクトを止められなかったというエピソードに由来します。
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サンクコスト効果を利用した集客方法
上記のような話を聞くと、サンクコスト効果に対しネガティブな印象を持ってしまうかもしれません。
しかし、これを逆手にとって事業に活用することで、集客や会員維持など、特にマーケティングの局面で役に立ちます。
では、どのような事例があるか見ていきましょう。
その1:パートワーク誌、ファイルマガジン
「週刊〇〇を作る」でお馴染みのDeAGOSTINIをはじめとする、分冊百科と呼ばれるパートワーク誌やファイルマガジンは、サンクコスト効果を狙った最も代表的な施策例です。
例えば、「週刊プラモデルを作る」など、何かを完成させるパートワーク誌の場合、通常、創刊号は非常に安い価格で提供されます。
場合によっては赤字覚悟で創刊号を展開するのですが、安いからと創刊号を買ってパートワークに取り組み始めた読者は、「途中でやめると今までの労力がもったいない、どうせなら最後まで完成させたい」といった心理に陥り易くなります。
そうなると「せっかく途中までやったのだから」という思考になり、創刊号より後を購入し易くなるのです。
その2:会員ランクやポイント
携帯電話(通信キャリア)をはじめとする様々な会員サービスにおいて、継続してサービスを利用してもらうために、会員ランクやポイント制度を導入するということがあります。
長期間利用しているユーザーには割引が適用されたり、ポイントが貯まったり、という仕組みがそれにあたります。
これまでの使用実績やサービスの利用頻度によって会員をランク付けしたり、退会すると消えてしまうポイントを付与したりして、クーポンや割引などの特典を受けられる仕組みにします。
それによって顧客の離脱を減らし、固定客の増加につなげるのです。
その3:オンラインゲームの課金制度
オンラインゲームやスマホゲームの課金制度も、サンクコスト効果を期待した集客方法の一つと言えます。
基本的なプレイは無料にしておいて、ゲームを進めるごとに装備やレアアイテム獲得のための課金をユーザーに促すものです。
ユーザーはゲームに費やした労力と時間、ゲームの中に蓄積した資産を無駄にしまいと課金に踏み込み、そして更に課金したお金を無駄にしまいと、更にゲームの利用や追加課金を続けます。
見方によっては、サンクコスト効果は、サブスクリプション型のビジネスモデルに適しているかもしれませんね。
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サンクコスト効果の回避方法
上で述べたように、顧客やユーザーに対してサンクコスト効果が見込める施策作りをすることで、集客や顧客の離脱防止につながります。
しかし、企業や商品・サービスの提供者側が開発やプロジェクトを進めるにあたってサンクコスト効果に陥ってしまうと、コンコルドの例のように大きな不利益を被ることになりかねません。
そのような事態を避けるためにも、サンクコスト効果の回避方法について紹介しましょう。
①客観的な意見を取り入れる
サンクコスト効果に陥らないための最も効果的な手段は、第三者の冷静、客観的、かつ出来れば定量的な意見を取り入れることです。
サンクコスト効果にハマってしまっている時、多くの人は冷静さを無くしています。
継続することによるメリットデメリットを冷静に比較できなくなっているのです。
よって、プロジェクトや商品開発を継続した場合と止めた場合に採算がどう異なるのかを客観的かつ定量的に理解することで、今後の展開について冷静な判断を下すことができるでしょう。
②ゼロベースで再度考える、仮定する
サンクコスト効果に陥ってしまった自覚が少しでもあるならば、一度冷静になりゼロベースに立って考えてみることです。
実際にどれだけのサンクコストを費やしたのかは一旦無視して、事業成功のためにやるべきこと、必要な経費について改めて考え直してみます。
まとめ
サンクコスト効果をうまく活用すれば、集客や固定客の増加につなげられますが、事業者が自らがサンクコストに囚われてしまう危険もあります。
サンクコスト効果、という言葉を常に頭に置き、上手く活用しながら事業展開を進めていきたいものです。