誰も予想できなかった、コロナ禍。
人の動きは制限され、テレビを付ければ、メディアは飲食店が悪いかのように騒ぎ立てています。
飲食業界は、かつてなく厳しい状況に置かれている、ということに、疑問の余地を差し挟む人はいないでしょう。
しかしそんな中で、環境の変化に柔軟に対応し、撤退戦略と多角化戦略を巧みに展開しているのがワタミグループです。
飲食店がコロナ禍を乗り切るための知恵を、ワタミグループから学んでみましょう。
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飲食業界は前年比15%以上の売上減少
新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言の発出、テレワークの増加、会食自粛などの影響。
かつてない逆風に襲われ、外食業界は売上が大きく落ち込んでいます。
日本フードサービス協会が今年1月に公表した最新の「外食産業市場動向調査」は衝撃的な内容でした。
2020年における外食産業の売上は前年比15.1%減となり、1994年に調査が始まってから最大の下げ幅となりました。
月単位でみると緊急事態宣言が発出された2020年4月は、前年同月比39.6%減となり、単月としては過去最大の減少幅です。
こうした状況の中、多くの飲食業界の企業が業態転換の模索や、新規事業への進出を検討し始めました。
しかし、飲食業界で培ったノウハウを活かし、かつ”withコロナ”の中で安泰となる業態へとシフトチェンジするのは、決して容易ではありません。
安易なアイディアで新事業を始めようとすると、苦労するでしょう。
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居酒屋のワタミが新規事業の焼肉に舵を切った
苦しんでいる外食産業において、柔軟性をもって事業を縮小し、新たな業態へと積極的に事業の転換を図っているのがワタミグループです。
ワタミは元々居酒屋としてスタートしましたが、その後は宅食サービスや農業、エネルギーなど多様な新規事業分野に進出し、今や総資産400億を超える大企業へと成長しています。
代表取締役会長兼グループCEOである渡邉美樹会長は政治家、教育者としても幅広く活動している著名人で、ご存じの方も多いでしょう。
そのワタミグループもコロナ過の影響を受け、本業である居酒屋チェーン店の「和民」が売上不振の状況に陥り、昨年2月には中国本土にあった「和民」の7店舗を撤退しました。
さらに昨年4月に緊急事態宣言が発出されてからは、国内で展開していた外食400店舗を休業させ、居酒屋60店舗を撤退させています。
ところがワタミグループは、事業の撤退をする一方で将来有望な新規事業に積極的に展開し、業界内で注目を集めました。
デリバリー・テイクアウトの強化
例えば、コロナ過により外食ではイートインが難しくなっていることからデリバリー・テイクアウトへの強化を図り、デリバリー専門店である「から揚げの天才」の店舗数を8店舗(3月末時点)から55店舗(9月末時点)へと拡大させています。
宅食の分野に早く参入を決めたことは、先見の明があったと言えるでしょう。
焼肉業態への転換
また、コロナ過の最中である昨年5月、新事業である「かみむら牧場」という焼肉チェーン店の1号店をオープンさせています。
既存の焼肉チェーン店は、繁華街に多く立地し、サラリーマン・OLの会食の場や飲み会の場として利用され、イートイン・直接接客が基本です。
一方、「かみむら牧場」は、立地場所を繁華街ではなく住宅街に設定。
ターゲット層は会社員・大人数ではなく家族・少人数、さらに飲み会ではなくランチやディナーを楽しめるようにメニューや営業時間を工夫し、デリバリーにも対応できる焼肉店というコンセプトで設立されています。
コロナ過という環境に適応し、その中でも成長が望める新事業を立ち上げたわけです。
さらに昨年10月には、新たな事業として「焼肉の和民」の展開を開始しました。
こちらも店舗内に人ではなくロボットを配置するなど、withコロナの時代に配慮したサービス内容が特徴です。
伸びている領域はどこかある
こうしたコロナ対応型の新たな外食店舗の形は、今後さらに成長すると予想されています。
将来的にワタミの主要事業分野が「居酒屋の和民」から「焼肉の和民」に転換することで、居酒屋比で店舗当たりの売上高が2倍以上になるとも言われています。
どんなに厳しいと言われる業界でも、細かく中身を見ていけば、大抵どこか伸びている領域があるもの。
トレンドをしっかりと見極め、大胆に舵を切ることで、潮の流れに逆らって船を進めることもできるのです。
【参考】新規事業のヒント?コロナ禍で業績アップした業界と企業5つ
飲食業界はコロナ過の中でどうやって生き残りを図るか
少し数字の話になります。
飲食店の利益は、売上高から固定費と変動費を差し引いて算出されます。
固定費・変動費を見直してみる
固定費とは毎月必ず発生する支出部分のことで、
例としては家賃や人件費、リース料、支払利息、減価償却費などです。
一方、変動費とは食材費や光熱費、消耗品費、販売促進費などが該当します。
大きなところから手を付ける
これら固定費・変動費のうち、コロナ過により営業時間の短縮や休業によって大きな負担となってくるのが固定費の家賃です。
飲食店は人通りの多い繁華街に立地していることも多く、どうしても家賃は高めとなってきます。
どれだけリストラ・費用削減の努力をしても、お店を構えている限り必ず家賃は支払わなければなりません。
withコロナの時代、固定費の家賃が高い店舗で商売を続けるのは、難しい面も出てくるでしょう。
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まとめ
最近では多くの飲食店で、テイクアウト等コロナ過の状況に合わせて売上を伸ばす努力を始めるようになってきました。
しかし、すぐに取り組める対策だけでは固定費の負担もままなりません。
お店の継続が危ぶまれる場合は、居酒屋のワタミが「焼肉店」の展開を始めたように、思い切ったアイディアのもと業態転換を検討したり、固定費について考え直したりするのも良いかもしれません。