「損金算入」。
経営者同士や、税理士と話をしていると、しばしば出て来る言葉です。
「要するに、経費の事でしょ」と安易に理解している方、8割は正解ですが、2割は間違っています。
そしてこの「損金算入」は、税金を計算する上で非常に重要な概念になってくるのです。
税金を少しでも安くしたいと考えている経営者は多いかと思いますが、この「損金算入」のルールを知っておくことで、節税効率は格段に違ったものになります。
ここでは、法人事業における節税対策として欠かせない「損金算入」について、最低限知っておくべき基礎知識について解説します。
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「損金」とは?損金算入の目的と重要性
損金とは、法人税法上の専門用語で、事業において資産減少の原因となる「①原価」「②費用」「③損失」この3つの要素を指します。
一般的に「費用=損金」であると認識されがちですが、必ずしもそうではないということに注意が必要です。
事業運営のために発生した多くの出費をはじめ、商品や、サービスに用いられる資産価値の減少、また赤字が含まれます。
法人である企業は、年間の所得額に応じて「法人税」の納税義務が課されているため、損金をしっかりと把握し、管理し、極力算入することで、所得額や法人税課税率を下げることができ、節税につなげることができるのです。
原価、費用、損失について
それでは、損金に算入できる原価、費用、損失についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
①原価
原価とは、文字通り企業が提供する商品やサービスの元々の価値、価格を指し、以下の計算式で導き出されます。
(期首商品棚卸高+当期商品仕入高)ー期末商品棚卸高=売上原価
損金は、事業年度ごとに算入することになるため、原価は、その年度内において売却した商品の原価を計算します。
年度内に売却した商品は、前年度から保有していた在庫の原価(期首商品棚卸高)と、年度内に新たに仕入れた在庫の原価(当期商品仕入高)を合計し、最後に余った在庫の原価(期末商品棚卸高)を差し引くことで算定することができます。
それを、売上原価として損金に算入するのです。
②費用
費用とは、事業を行うために必要な出費、つまり皆さんが通常イメージされるような経費を指します。
費用に含まれるものとして、例えば、
- 地代家賃
- 水道光熱費
- 広告宣伝費
- 修繕費
- 保険料
- 旅費交通費
- その他雑費
などが挙げられます。
一部算入できないものや、参入に制限があるもの、適切なタイミングで計上すべきものがあるため、全ての出費や経費を損金に算入できるわけではないということに注意が必要です。
③損失
損失とは、会社が保有する資産の価値の減少分、赤字などを指します。
一般的には、事業全体の収入が支出を下回った場合の赤字を意味しますが、地震や火事、その他自然災害によって事務所やオフィスが壊れたなど、通常通りの営業が不可能になった場合に発生する出費や費用も該当します。
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損金算入できないもの、制限されるもの
それでは、損金算入できないもの、制限されるものなど、注意が必要な項目について見ていきましょう。
①役員報酬、同族会社間の取引、寄付金
役員報酬や親族が経営する会社、同族会社間の取引にかかる費用、そして他の組織や団体に対する寄付金は原則として損金不算入となります。
役員報酬の場合は経営陣、事業主自身への給与や賞与を高く設定し、税負担を意図的に免れようとする行為を防止するためです。
同族会社間の取引に関しては、親族間で便宜を図った行為を防止するためで、寄付金に関しても税負担を減らそうとする行為を防ぐという目的から算入ができません。
身内でお金をぐるぐる回していたら節税になる、というのは、フェアではないですよね。
②評価損、貸倒損失
物価の変動や経済状況、景気の変動等によって棚卸資産や不動産など固定資産が、取得した際の価値よりも下がった場合、その差額を評価損として損金算入できることがあります。
また、取引先が倒産した際に発生する「貸倒損失」も損金に含めることができる場合もあります。
入ってくる予定だったお金が入ってこなかった、というのは、既に計上していた利益がなくなるわけなので、これは損金として扱われます。
しかし、評価損、貸倒損失、いずれの場合も、一定の条件をクリアしないと算入できないため注意しましょう。
③接待交際費
接待交際費は損金としての算入、不算入の見極めが難しい項目の一つです。
そもそも交際費とは、取引先との接待や、商談時に利用した飲食店における飲食代、その他交通費など取引を円滑に行う上で必要となる出費を指します。
しかし、損金として計上できる交際費の額には上限があります。
飲食代の場合には1人あたり5000円まで、5000円以上の場合は50%までとなります。
接待交際費を無制限に経費として認めてしまうと、「税金として払うくらいなら、飲み代で使ってしまおう」ということで、事業とは関係ない個人的な費用のように無限に飲み代使ってしまう、そして税金が減ってしまう、ということが考えられるからです。
それは、フェアではないですよね。
法人の事業規模や費用の内訳によってそれぞれ条件が異なるため、詳しくは、税理士や国税庁の情報を参考にしましょう。
ちなみに、資本金が1億円未満の中小企業の場合、1事業年度に800万円まで損金算入することが可能、と覚えておくと便利です。
繰越資産、減価償却費
繰越資産や減価償却費に関しては、取得価額を、取得した年度内に一括で損金として参入するのではなく、複数年に渡って少しずつ損金に算入していくことになります。
繰越資産とは、例えば、開業に関する費用や商品、サービスの開発費用など、支払いは初期に発生するが、その効果を長期間に渡って享受できるような性質のものに対して適用されます。
減価償却費とは、事業用のパソコンや大型機材、車両など、比較的な高額な備品、固定資産等を取得した際に、その費用を長期間に渡って配分した方が良いようなものに対して適用されます。
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まとめ
損金算入は法人企業の経営における節税施策として欠かせない知識です。
そして経営者にとっては、常識とも言える知識。
特に大きな節税効果が期待できるベンチャー、スタートアップなど中小企業においては、損金算入が事業経営に大きな影響を与えることから、その経営者や経理担当者には高度な知識が求められます。
項目によってそもそも算入できないもの、計上のタイミングや条件が設定されているものもあることから、計算ミスや算入漏れ等がないように知識を深めていきましょう。