「ストックオプションで大儲けした。」
ベンチャー企業に転職した友人から、そのような話を聞いたことがある人もいるかもしれません。
昔は物珍しさがあったものの、今となっては広く知られるようになったストックオプション。
しかし、一言でストックオプションとは言っても、その種類は実に様々。
ここでは、ストックオプションの概要とその種類、一般的な導入の流れについてご説明します。
【参考】ストックオプション制度とは?導入のメリット5つと注意点2つ
ストックオプションとは?
ストックオプションとは、企業側が社員や役員に与えるインセンティブの一つです。
安い価格で株式を購入できる「権利」を従業員に与えることで、社員や役員らは、株価が上昇した際に、その「権利」を行使して安い値段で株式を取得することができます。
そして、安価で取得した株式を市場価格で売却することで、その差額を利益として享受することができる仕組みになります。
導入のメリットとリスク
ストックオプションとは、そもそも、優秀な社員を雇いたいが、資金がないスタートアップのために考え出されたものです。
仕組みをよく見てもらえば分かる通り、インセンティブとはいえ、会社は従業員に対して直接賃金を払うわけではありません。
従業員は、株価の値上がり分を、利益として得る形です。
ですので、会社にとっては、コストになりません。
コストをかけず、社員らの経営参画意識を高め、モチベーションを上げることで、パフォーマンスを高め、定着率の向上や人材の流出に歯止めをかけられるのです。
これこそ、ストックオプション導入の最大の利点と言えるでしょう。
しかし、その一方で、企業の経営状態や景気が悪く、株価の上昇が期待できないと、ストックオプションはインセンティブになりません。
そうなると、社員の意識や士気の低下や離職へとつながるリスクにもなり得るでしょう。
ストックオプションの種類
ストックオプションには、
- 税制適格
- 株式報酬型
- 有償型
- 信託型
の大きく4種類があります。
それでは、それぞれの特徴や違いについて見ていきましょう。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションは、従来より多くの企業で導入されている、最も一般的な種類のストックオプションです。
その他の種類のストックオプションでは、社員らは、ストックオプション、すなわち、権利を会社から「買う」必要があります。
多くの場合、株価に対して大きく割安ではありますが。
ところが、この税制適格ストックオプションは、買う必要がなく、払込不要。
つまり、「買わなくても良い、無償のストックオプション」ということになります。
これは、付与の対象になる者や行使の期限などの要件をあらかじめ設定する必要があります。
このストックオプションによって社員らが得た報酬は所得税の対象にならないことが最大の利点です。
ストックオプションは、金額が大きいため、所得税がかかることになると、税率が高くなってしまいます。
場合によっては、利益の半分近くを、所得税として持っていかれることになります。
常に高額の利益を得続けるわけでなく、努力と我慢を続けて、一時的に大きなボーナスをもらうだけなのに、税金で利益の半分近く持っていかれるとなると、せっかくのストックオプションの価値も大きく下がってしまいますよね。
そこで、「税制適格」という制度を設け、大きな税率がかからないようになっているのです。
税制適格の場合、株式の譲渡で利益を得た際にかかる金額の約20%が、税率になります。
ストックオプションをもらう際には、それが税制適格に概要するのかどうか、しっかりと確認する必要があります。
【参考】税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について(外部リンク)
株式報酬型ストックオプション
株式報酬型ストックオプションとは、その名の通り企業側が株式を用いて報酬を支払うタイプのストックオプションです。
権利行使額を、1円または、それに近い水準の低額で設定するため、1円ストックオプションとも呼ばれ、社員らの退職金や慰労金目的で活用されます。
株式報酬型ストックオプションは、税制適格ストックオプションの条件を満たしません。
よって、権利行使時、売却時いずれも所得税が課税されてしまいますが、企業は報酬分を損金算入としての計上することができます。
外資系企業の管理職や経営幹部に対して用いられることが多いストックオプションです。
有償型ストックオプション
多くの場合、特に、上で述べた2つのケースの場合、社員らがストックオプションを取得する際にほぼ費用は発生しません。
しかし、有償型ストックオプションの場合、企業が発行したストックオプション、つまり「権利」を買い取る形になります。
権利行使して株式を取得、その後売却、という基本的な仕組みは同じですが、有償型ストックオプションは有価証券としてみなされることから、無償のものと比べて課税負担が少ないことが特徴として挙げられます。
税率は、約20%と考えていて、ほぼ相違ないでしょう。
信託型ストックオプション
比較的新しく近年注目を最も集めているタイプとして信託型ストックオプションが挙げられます。
信託型ストックオプションとは、有償ストックオプションの一種で、発行時には付与することになる具体的な役員や社員、配分等を決めず、「後で」決めることを可能とする仕組みです。
ストックオプションは、多くの場合、従業員に「先に」付与し、モチベーションを上げて頑張ってもらう仕組みですが、先に付与してしまうと、タダ乗りできてしまったり、その後の働きで不公平感が出てきてしまったりするリスクが生じてしまいます。
じゃあ後で付与するか、となると、株価が既に上がってしまって、利益が取れなくなってしまう可能性もあります。
それらのリスクを、信託型にすることで回避できます。
発行だけしておいて、誰に、いくらストックオプションを付与するか、という判断を、「後」にすることができるのです。
信託型にすることで、導入時に若干のコストがかかってしまいますが、後で生じるかもしれない諸々のリスクを考えると、安いものです。
具体的な導入手順
それでは、導入する際の具体的な手順、流れについて見ていきましょう。
ステップ1:株主総会を開き金額や内容を決める
役員も含めストックオプションを導入、実施するためには、発行する株式数や内容など大まかな概要を決議するための株主総会を開催します。
しかし、社員にのみストックオプションを付与する場合、もしくはすでに定款において取り決めが明記されている場合には、開催が必要ないケースもあります。
ステップ2:募集要項を定める
株主総会の決議を経て、次は具体的な募集要項を作成します。
- 権利行使価格
- 期間
- 数量
- 割当日
などを具体的に決定し、募集要項が作成できたらその内容を、株主に対して通知します。
ステップ3:申込者へ通知をする
次に、企業はストックオプションの対象となる社員や役員に対して通知をします。
企業の商号はもちろん、募集要項の内容や支払の有無を通知し、一方で付与対象者(申込者)は氏名、住所、数などに関する書面をまとめ、企業側に提出します。
ステップ4:付与者、割当数の決定、割当契約の締結
通知が済んだら企業と付与決定者の間で割当契約を結びます。
契約書の中には割当数を含め、申込者がストックオプションの権利を受ける旨や、1株あたりの払込金額等の必要事項を盛り込みます。
契約締結後には、割当日の当日から2週間以内にストックオプションに関する登記を忘れずに行うようにしましょう。
まとめ
ストックオプションを実際に導入するにあたり、会社の状況や付与対象者の役職によって、導入までの流れが変わるケースもあります。
自社にとってどのストックオプションの種類が適切なのか。
また課税、非課税など社員や役員側の利点はどうなのか。
この辺りもしっかりと考慮した上で、正しい手順を踏んで導入を検討していきましょう。