2020年のコロナ禍以来、業績が落ち込んだ大企業が資本金を1億円以下に減資するという動きが活発化しました。
資本金は大きいほど経営が安定していることを示し、その企業に対する社会の信用力は高まると考えられています。
ではなぜ大企業が相次いで資本金を1億円以下にしようとするのでしょうか。
その背景にあるのが、税務上のメリット・節税効果です。
今回は、資本金を1億円以下に減資することで得られる税務上のメリットについて詳しく解説します。
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大企業が減資により中小企業化する動きが相次ぐ
昔、減資と言えば、業績が悪化した会社がやむを得ず選択する財務施策でした。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年以降、一部の大企業の中で資本金を1億円以下に減資する動きが相次いでいます。
例えば、国内旅行最大手であるJTBは、2020年3月、資本金を当時の23億400万円から1億円に減資しています。
減資には株主総会の承認が必要ですが、2020年2月に株主総会で承認を得ていました。
また、日本の航空会社であるスカイマークも資本金を90億円から1億円にすることを2020年11月に開かれた株主総会で承認。
さらに新聞大手の毎日新聞社も、2021年1月に開催された臨時株主総会の場で、41億5,000万円あった資本金を1億円に減資することが承認されました。
JTB、スカイマーク、毎日新聞社は、いずれも日本を代表する大企業です。
そしてそれらの大企業が、相次いで資本金を1億円以下にすることを決めたわけです。
税制上では売上や従業員などの規模に関係なく、資本金が1億円以下であれば中小企業として扱われます。
つまり、これら大企業は自ら望んで中小企業化したのです。
他にも、「かっぱ寿司」の経営を行っているカッパ・クリエイト、居酒屋の「はなの舞」を運営しているチムニーも1億円まで減資に踏み切ることを公表しています。
もはや、減資ラッシュとも言える状況です。
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資本金を1億円以下に減資するメリットとは?
大企業が中小企業化しようとする最大の理由は、資本金を1億円以下にすることで得られる税務上のメリットを得るためです。
メリットの具体的な内容としては、以下の点が挙げられます。
・課税所得800万円以下の金額は法人税率が軽減されます
・交際費等が年800万円以下まで損金算入(法人税の計算の際に差し引ける費用)できる
・繰越欠損金の損金算入割合が100%になる(大法人の場合は50%のみ)
・法人事業税における外形標準課税が適用されない(※外形標準課税とは資本金や事業活動の規模で課税される税金)
資本金1億円以上の大企業であれば、たとえ赤字でも外形標準課税の負担が必要とされるので、中小企業化するメリットは大きいと言えます。
また、外形標準課税は集計処理等に労力を必要とするため、税負担がなくなることで経理の業務量を減らすことも可能です。
資本金を1億円以下にすることには以上のような利点があり、大企業が相次いで減資を決めたのもそのメリットを狙いとしたものです。
今後、税制改革が行われる可能性も
大企業の減資は節税目的であることが明らかになっています。
よって、「節税のために中小企業のふりをしている」「大企業としての責任(税負担)を果たそうとしていない」などの批判があるのも事実。
頓挫したシャープの減資計画
例えば、2015年に電機メーカーのシャープが、当時1,200億円以上もある資本金を取り崩して1億円まで減資するという計画を立てました。
その頃、シャープは業績が大きく落ち込んでおり、中小企業としての税制上の優遇措置を受けながら、将来的な業績回復を図っていこうと考えたのです。
ところがこのようなシャープの姿勢に、日本社会は猛反発をしました。
マスコミも税金逃れと指摘し、批判が集中したのです。
結局、シャープは資本金を1億円にする減資の計画を断念しました。
しかし、シャープの時のような減資を厳しく見る社会の目は、コロナ禍により変化しています。
多くの企業で業績が極度に悪化している中、企業を存続させるためには、中小企業化して税制上の優遇措置をするのもやむを得ないとの見方が生じてきています。
コロナ禍以前よりも社会が寛容になってきたとも言えます。
とはいえ、大企業が資本金1億円まで減資することは、都合のよい節税対策の面があるのは間違いありません。
今後、コロナ禍収束の目途が立ったとき、いつまでも中小企業としての優遇措置を与えるべきではないとして、制度改正の議論が生じると予測する有識者もいます。
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現行制度では資本金1億円を超えないことを意識する
昨年来、大企業が相次いで資本金1億円以下に減資する決定を下した理由は、コロナ禍による業績悪化への対策としての「節税」です。
しかし、こうした露骨な税金対策には少なからず批判が出ており、将来的に制度改正が行われるとの見方もあります。
ただ、少なくとも現行制度においては、資本金を1億円以下にすることで税務上大きなメリットがあります。
成長や企業・ベンチャー企業の中には、事業拡大を見越して増資を考える経営者もいるかもしれません。
その際、資本金が1億円を超えないことで得られるメリットを考慮し、自社にとって最も合理的な選択をするのが望ましいでしょう。