「源泉徴収」という言葉。
何やら小難しいニュアンスを湛えた言葉ではありますが、給料をもらったことがある人であれば、一度は耳にしたことがあるでしょう。
しかし、その意味や仕組みについて、よく分からないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、源泉徴収の基礎知識や仕組みについて分かり易く解説します。
企業側はもちろんのこと、報酬を受け取ることになるフリーランスや副業者の方も、源泉徴収の知識については、最低限の知識は持っておきたいものです。
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源泉徴収とは?
源泉徴収とは、企業や事業主が外部の人間に仕事を依頼し報酬を支払う際、事前に所得税などを差し引く制度です。
主に個人やフリーランスなどに仕事を外注、発注した際に適用されます。
請求した金額に対し、実際に振り込まれる金額が少ないことがあるのは、税金を源泉徴収されているからです。
源泉徴収の対象となるもの
国税庁によると、以下の6項目が源泉徴収の対象となる報酬、給与の例となります。
しかし、支払われる側の事業形態によって対象が異なる場合もあるため、注意する必要があります。
①原稿料や講演料
外部ライターや記者に支払う原稿料や著名人などに講演、セミナーの開催を依頼する際の報酬
②士業、特定資格保有者への報酬
会社の顧問弁護士や税理士、公認会計士、司法書士など士業に携わり、特定の資格を持つものに仕事を依頼する際の報酬
③社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
社会保険の被保険者が医療機関を利用した際、支払いを審査し医療機関に支払う報酬
④プロのスポーツ選手、モデルや外交員への報酬
プロの野球、サッカー、ゴルフ選手、またモデルや外交員は事業主として扱われるため源泉徴収が必要
⑤会社のイベントや接待等におけるホステスへの報酬
社員旅行や接待の際に、ホテルや旅館など宿泊施設においてコンパニオンやキャバレーに勤務するホステスに仕事を依頼する際の報酬
⑥広告宣伝のための賞金など
企業が自社の商品、サービスの広告宣伝をするための賞金や賞品
特に知っておくべきは
この中で、読者の多くが当てはまるのは、「①原稿料や講演料」や「②士業、特定資格保有者への報酬」ではないでしょうか。
そして、意外なのは「⑥広告宣伝のための賞金など」かもしれません。
賞金や商品も源泉徴収の対象になるので、注意が必要です。
国税庁のHPにも詳細が掲載されています。
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源泉徴収の計算や納付手続き
源泉徴収は報酬や給与を支払う側がすべき手続きですが、フリーランス、副業者にとってもその知識は必要となります。
源泉徴収税額の計算方法
源泉徴収に課される税率は、報酬支払い金額が100万円以下、100万円以上の場合でそれぞれ異なります。
100万円「以下」の場合
源泉徴収税額=報酬支払金額×10.21%
例えば、原稿料や特定資格保有者への報酬が90万円の場合、
源泉徴収額は90万円×10.21%=91,890円となるため、
実際に支払う額は90万円-91,890円=808,110円となります。
実際は、これに消費税が乗ることが多いと思いますが、消費税が10%で9万円だとすると、
振込額は、898,110円となります。
消費税を考えると、振込額は、報酬額より若干少ないイメージです。
100万円「超」の場合
源泉徴収税額=(報酬支払い金額-100万円)×20.42%+102,100 となります。
つまり、100万円までの部分は、10.21%、
100万円を超えた部分については、10.21%の倍の、20.42%になる、というわけです。
例えば、対象となる報酬額が110万円の場合、
源泉徴収額の計算式は、(110万円-100万円)×20.42%+102,100=122,520円となります。
よって、実際に支払う金額は110万円-122,520=977,480円となります。
これに消費税が10%、11万円だとすると、
振込額は、1,087,480円、となります。
同じく、消費税を考えると、振込額は、報酬額より若干少ないイメージです。
源泉徴収の納付手続き
企業、事業者は源泉徴収した税金を、原則報酬を支払った翌月の10日までに所轄の税務署に納付します。
しかし、報酬支払いの対象者が10人未満の場合、税務署に事前申告することで7月、翌年1月の年2回、つまり半年に一度まとめて納付ができる特例措置を受けることも可能です。
納付の際には、
- 税務署で取得できる専用書類を使う
- e-Taxなどオンライン上のサービスを利用する
- 国税クレジットカードお支払いサイトを利用してクレジットカードで支払う
これら3つの方法があります。
納付が遅れた場合のペナルティ
企業、事業者が源泉徴収した税金を納付する場合、納付期限を1日でも過ぎてしまうと不納付加算税というペナルティが上乗せして課されます。
納付期限を超えた場合、遅れた日数を問わず、納付総額の5%が課されてしまうため納付漏れや計算ミスがないか確認した上で必ず期日内に納付しましょう。
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フリーランス、副業者が押さえておくべきポイント
源泉徴収の納付、支払いは報酬を支払う企業側の義務ですが、報酬を受ける側であるフリーランス、副業者も以下の3つのポイントについて最低限理解しておきましょう。
復興特別所得税について
令和19年12月31日までに生じる給与や報酬にかかる源泉徴収税率には、所得税に加え復興特別所得税が課税されるケースがあります。
令和19年までって、けっこう長いですよね。
復興特別所得税とは、東日本大震災からの復興に必要な財源を確保する名目で作られた税金で、報酬が100万円以下の場合には0.21%、100万円以上の場合には0.42%の税率が課されます。
以前は、源泉徴収は10%、20%だったのですが、10.21%、20.42%、という微妙な端数が発生しているのは、そのような背景があるわけです。
請求書を発行する際の消費税の取り扱いについて
事業者に対して、フリーランスや副業者が報酬の支払い請求をする際、消費税の取り扱い方が異なる場合があります。
原則としては、消費税も含めた報酬総額に対して源泉徴収が課されますが、報酬総額、消費税額を明確に分けて請求書を発行する場合には消費税を除いた報酬総額のみ源泉徴収が課されることもあるため注意しましょう。
源泉徴収税額の還付制度について
副業者やフリーランスの場合、確定申告の際に源泉徴収額の還付制度を受けられることがあります。
すでに納付した税額が、経費などを差し引いた収入に課される税額を上回る場合、その差額の一部を還付として受け取れます。
まとめ
源泉徴収は所得税等の納税義務を果たすために欠かせないしくみであり、雇う側、雇われる側双方が必ず知っておくべき知識の一つです。
税率の計算や請求、納付に関して不明点がある場合には、専門家に相談するなど納付漏れや計算ミスが生じないように注意しましょう。