労働者として働く上で、会社との問題に巻き込まれることは決して他人事ではありません。
- 残業代が支払われない
- 十分な給料が貰えていない
- 急に解雇された
など、これらは、案外大きな会社でも起こり得る出来事です。
もしもの時には、自分の権利と利益を、自分で守らなければなりません。
ここでは、労働者ならぜひとも知っておきたい労働審判制度について解説していきます。
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労働審判とは?
労働審判とは、通常裁判よりも簡易的で、使用者と労働者間の労働問題を迅速に、適正に解決するための労働裁判制度の一つです。
平成18年4月に発足して以来、年間およそ3,500件前後の申し立てがあります。
主に労働者としての権利、利益を会社によって侵害された際に利用することになります。
この制度を通じて、問題の早期解決、和解を目指すことができます。
労働基準監督署を通じて申し込むことができます。
通常裁判との違い
通常裁判との一番の違いは、原則3回、2ヶ月半以内の審議で終結すること。
また、労働審判員と呼ばれる民間出身の有識者が審議に加わるというのも特徴。
使用者、労働者にとって公平な立場から早期の解決を図ります。
申し立て方法も、通常の裁判に比べて圧倒的に簡単。
- 労働審判手続申立書
- 紛争の証拠
この2つがあれば誰でも気軽に申し立てられるのです。
労働審判制度が誕生した背景
実は、この制度が誕生する前にも、「紛争調整委員会によるあっせん制度」と呼ばれる簡易的な労働問題解決手段がありました。
しかし、強制力が弱く、調停がまとまらないケースも多々あったのです。
そして、結局、時間も費用もかかる通常の裁判に発展することがほとんどでした。
そのような背景から、
- 労働者の負担を最小限に抑えられる
- しっかり問題に対処できる
「あっせん制度」と「裁判」、両社の長所を取り入れた労働審判制度が発足したのです。
労働審判で対応できる問題
まず、労働審判で対応できる問題について紹介します。
賃金トラブル
労働者、使用者間で最も頻繁に起きる賃金トラブルは、労働審判で解決を図れます。
例えば、
- 残業しているのに残業代が支払われない
- 十分な給料がもらえていない
と言った問題です。
申し立ての際には、
- タイムカード
- 勤怠記録
- その他証拠となるもの
を準備しておく必要があります。
雇用を巡るトラブル
雇用に関するトラブルも労働審判で対応できます。
- 納得できる理由もなく解雇された
- ミスしただけでクビを宣告された
- いきなり「明日から会社に来なくていい」と言われた
などのケースです。
労働審判で対応できない問題
一方、労働審判では対応できない問題も存在します。
集団による申し立て
賃金や雇用に関するトラブルでも、「労働組合など集団で会社を訴える場合」、労働審判は利用できません。
労働審判は、あくまで「個人」対「企業」の問題解決を図るための制度なのです。
ハラスメント、いじめなど対個人のトラブル
セクハラやパワハラ、いじめや差別など、民事紛争や対個人の事件も労働審判の対象外。
労働審判は、あくまで「個人」対「企業」が対象です。
その場合、労働組合や労働局に相談し、適切な対応を取ります。
公的機関との紛争
公的機関に勤める人や、公務員の場合も対象外です。
この場合、対「企業」ではなく、対「自治体」、もしくは対「国」となります。
そのため、労働審判の対象外となるのです。
あくまで、民間企業に勤める人を対象としたものであることに、留意する必要があります。
労働審判によって解決を実現できた事例
実際に労働審判の申立によって、問題の早期解決を実現できたという事例を紹介します。
ケース1:素行不良と能力不足を理由とした突然の懲戒解雇
ある民間企業において、管理職クラスのポジションにいたAさん。
なぜか、素行不良と能力不足を理由に、突然、懲戒解雇を宣告されました。
しかし、当のAさんには、全く思い当たる節がなし。
Aさんは解雇を不服としましたが、会社側は反論、労働審判に発展しました。
結果、Aさんの主張が全面的に認められ、およそ1年分の年収に相当する解決金を勝ち取るという、勝訴的和解を実現しました。
ケース2:窃盗や横領をした疑いによる突然の懲戒解雇
ある企業に従業員として勤めるBさん。
ある日突然、会社で窃盗や横領をした疑いをかけられ、懲戒解雇されてしまいました。
しかし、それらに全く身に覚えがなかったBさん。
無実を主張し解雇を取り消すよう会社に交渉しましたが、受け入れてもらえず。
やむなく、労働審判を申し立てました。
労働審判では、Bさんの無実が証明され、
- 懲戒解雇の取り消し
- 解決金の支払い
が実現し、和解が成立しました。
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労働審判を上手く使って紛争を解決しよう
- 残業代が未払いになっている
- 突然クビにされた
など、何か問題が起きた際には、まず会社との話し合いの機会を設けましょう。
それでも取り合ってもらえない場合は、労働基準監督署に相談し、労働審判制度を利用して問題の早期解決を図ります。
申し立ての際には、十分な証拠を揃えておくのが肝。
そして、いかにして労働審判員を味方にできるかも重要。
しっかりと準備を整えた上で臨みましょう。