シェアリングエコノミーが普及し、何でも貸し借りが行われるようになった現代。
シェアされる対象は、人や労働力も例外とはなりません。
巷のビジネス界隈では、社員をレンタルする「企業間レンタル移籍」なるものが、静かなブームになっているのだとか。
メディアでも取り上げられているので、見聞きした人もいるかもしれません。
今回は、社員をレンタルする企業間レンタル移籍について、その概要を踏まえた上で、貸し手側、借り手側、移籍者、それぞれのメリットや注意点について解説します。
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企業間レンタル移籍とは?
企業間レンタル移籍とは、主に大企業が、小規模のスタートアップ企業に対し自社の人材を期限付きで派遣、出向させ、マンパワーを提供することを意味します。
サッカーなどプロスポーツ選手が現在所属しているクラブでの契約を保持したまま、期限付きで他のクラブチームに移籍する期限付き移籍については、ご存知の人も多いかもしれません。
その、「社員版」と聞くと、理解し易いかもしれませんね。
これは、特に会社や新事業の立ち上げに伴い、企業間で人材のマッチングが行われます。
契約は、
- 企業が個別で取り決めを行う場合
- 企業が提供するプラットフォームを利用する場合
があります。
提供する会社としては、株式会社ローンディール等が有名です。
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企業間レンタル移籍がもたらすメリット
企業間レンタル移籍は、人材を借りる側にだけ利点があると思われがち。
しかし、その実、派遣する企業、そして移籍者当人にとってもメリットがあるのです。
まずは、貸し手側のメリットについて見ていきましょう。
型にはまった経営からの脱却
貸し手側にとっての最大のメリットは、型に嵌った経営から脱却する契機になることです。
社員を自社内に留めて組織内だけの仕事を任せるのではなく、一度社外に出し、新しいことを経験させることによって、自社の常識に縛られない新鮮な経験をさせることができます。
そのような社員は、戻ってきた際に新たなアイディア、変革を企業にもたらしてくれます。
リーダーシップを取れる人材を育成できる
幹部候補者など、人の上に立って指揮を取れる人材を社内だけで育てるのは大変です。
それなりの手間やコスト、そして時間を要することになります。
しかし、他社にレンタルして、そこでリーダーの経験を積ませることも可能です。
大企業の人は総じて能力の高い人が多く、スタートアップに行けば、リーダー的な立ち位置での仕事もこなせる可能性が高いでしょう。
ミドル層を子会社の社長や幹部として出向させるのは、総合商社等でよくみられますね。
そこでリーダー経験を積ませれば、低予算でリーダーシップを取れる人材を育成できます。
次に、受け入れる企業側にとってのメリットを見ていきましょう。
創業時の従業員の負担軽減
スタートアップなど小規模な企業の場合、創業間もない時期は何かと忙しくなります。
業務内容は分野を問わず多岐に渡り、社員一人一人の負担が大きくなりがちです。
まさに、文字通り、「猫の手も借りたい」ような状況なのです。
そのような時に、大企業から来てくれる能力の高い人材は、まさに神の使いの如し。
高い能力を持った人員が確保され、ビジネスを加速させることができるのです。
既存従業員の成長
企業間レンタル移籍において、誰がどこの企業に出向くかは自薦で決まるケースが多数。
そのため、移籍者のモチベーションは高いのが通常です。
主体性や自主性、リーダーシップを持ち合わせる、まさに模範となる人柄であることも。
そのような人が来てくれると、既存社員に良い刺激と影響を与えられます。
勿論、実務面でも学ぶことが多く、既存社員の成長も大いに期待できることでしょう。
企業、事業立ち上げを急加速させられる
スタートアップにおいて、創業後いかに早く事業を軌道に乗せられるかは成功へのカギ。
重要な局面で優秀な人材をレンタルできれば、企業、事業立ち上げを急加速させられ、事業そのものに勢いをつけられます。
採用ではないのでリスクが低い
一方、企業感レンタル移籍に限らず、スタートアップの門を叩く大企業出身者はいます。
スタートアップにとってはチャンスですが、もちろん、リスクでもあります。
「全然カルチャーに合わなかったらどうしよう」
「給与に見合う働きをしてくれなかったらどうしよう」
面接である程度は見極められても、入社してみなければ分からないことが多いものです。
そして、一度入社させてしまうと、なかなか後戻りできません。
辞めてもらおうにも、その社員には行き場がないからです。
その点、企業間レンタル移籍であれば、「戻るところ」があります。
「合わない」と思った時、戻るところがあれば戻ってもらえば良いので、大きく揉めるリスクは必然的に小さくなります。
それでは、移籍者本人にとってのメリットについても見ていきましょう。
新しいことへのチャレンジ
企業間レンタル移籍は、通常、大手から小規模の企業に出向くことになります。
そのため、移籍者当人は、全く新しい環境に身を置くことになります。
大手にはあっても、スタートアップでは「ないない尽くし」が普通。
それを一つのチャンスと捉え、積極的にチャレンジすれば有益な経験となります。
そこで身につけたスキルは、大手に戻ってもあらゆる場面で活きることでしょう。
自身の成長、キャリアアップ
また、自分自身の成長、キャリアアップにもつながります。
大手では上から言われたことだけやれば良くても、スタートアップではそうはいきません。
自分から課題を見つけて行動する主体性や積極性が求められるのです。
その分大きなプレッシャーや責任を感じることもありますが、自社に戻って新しい事業に携わる際や、将来独立する際などに求められるスキルと経験を積むこともできるかもしれません。
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企業間レンタル移籍の注意点
企業間レンタル移籍には、メリットだけではなく、当然デメリットや注意点もあります。
貸し手側の企業が注意すべきことについていくつか見ていきましょう。
移籍者の転職意識を刺激してしまうことも
企業間レンタル移籍は移籍者の転職意識を刺激してしまうことがあります。
当契約において、受け入れ側が移籍者をリクルーティングするのは通常禁止されます。
しかし、当人の意向であれば、職業選択の自由があるためそれを縛ることはできません。
移籍先で新しい経験を積み、視野が広がることが、転職したい、独立したい、という意向に繋がることは大いにあります。
そのため、優秀な人材の流出にもつながることがあり、その点については注意が必要です。
移籍費用負担に関して
プラットフォームを利用して契約を結ぶ場合、双方が負担する費用や手数料は予め決まっています。
そのため、問題が生じることはほとんどないと言えるでしょう。
しかし、企業が個別で契約を結ぶ際には、お互いの意向で決まります。
一方だけに過剰に費用負担が生じたり、費用に見合った活躍をしてもらえなかった際には、トラブルになることもあるでしょう。
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まとめ
人材の硬直化が懸念される一方、働き手不足や次世代を担う優秀な人材の不足が叫ばれる昨今。
企業間レンタル移籍は、それぞれの利用者に多くの利益をもたらすことが期待されています。
マンパワーの不足、新しいアイディアの枯渇といった問題を抱える企業やイノベーションの創出を実現したい企業は、利用してみる価値があるかもしれません。