言うまでもなく、雇用主には従業員が安心、安全に働ける職場環境を作ること、そして健康を守る責任があります。
ここで万一事故を起こしてしまうと、会社の評判はおろか、存続を危うくするような事態にも発展しかねません。
今回は、知らないとヤバい安全配慮義務について、その基礎を踏まえた上で違反した際の罰則の有無や、5つの取り組みについて紹介します。
安全配慮義務とは?
安全配慮義務とは、雇用主が従業員に対し、安全で健康に働ける環境を提供すること、それに配慮することを意味し、労働契約法第5条で以下のように定められています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
この法律は、陸上自衛隊のある隊員が、職務で車両の整備中にトラックに轢かれて死亡したいわゆる「陸上自衛隊事件」や、ある従業員が夜勤中に非番の従業員に殺害された「川義事件」がきっかけで明文化されました。
これによって、従業員の雇用における安全意識が大きく変わったと言われています。
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事故やケガの防止に加え、「心」の健康維持も
安全配慮義務は、職務中に事故やケガが発生しやすい肉体労働を伴う事業者向けの法律というイメージがあります。
しかし、身体向けのものだけではなく、その概念には心の健康も含まれるのです。
上司のパワハラ、モラハラによって精神を病んでしまい働けなくなる、長時間労働が続き心も体もボロボロになって健康な生活が送れなくなる、このような事態の発生も未然に防ぐことも、安全配慮義務の一つとなります。
安全配慮義務の2つの基準と違反になる主なケース
労働契約法第5条の条文の記述には、具体的にどんな行為が違反に該当するのかは記載されていません。
しかし、主に以下の2つの基準で違法性について判断するとされています。
1つ目は、雇用主がその事態や実際の被害が発生する可能性を事前に予想できたか、という「予見可能性」。
そして、それらを回避し得る可能性が十分にあったか、という「結果回避性」です。
例えば、現場作業など高所での業務において、
- 使用者が従業員の命綱等の装着の徹底を怠っていた
- 過労死ラインを大幅に上回る労働を従業員に課していた
- 危険な状態を放置していた
という場合は、明らかに違反となるでしょう。
罰則について
安全配慮義務を怠ることによって、時には従業員の命に関わる大惨事に繋がることもあります。
しかし、実はそれに違反したからといって、罰則が課されるわけではありません。
というのも、労働契約法の条文にはそれに違反した際の罰則がそもそも規定されていないためです。
しかし、民法にある、
- 第415条の「債務不履行」
- 第709条の「不法行為責任」
- 第715条の「使用者責任」
など、別の法律が根拠となって責任を追及されたり、事故の被害者、また遺族から損害賠償を請求されたりすることが一般的です。
安全配慮義務、遵守のための取り組み5つ
安全配慮義務を守るために何をすべきか、その具体的な取り組みに関して法律による規定はありません。
なぜなら、必要な対策は職場環境や業種・業態によって異なるためで、画一的に規定するのは難しいためです。
よって、現実的には、各事業所の判断や裁量に任されることになります。
以下はその取り組みのあくまで一例となります。
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①安全衛生委員会の設置
安全衛生委員会とは、労働安全衛生法によって一定の基準を満たす事業所に設置の義務が課されるものです。
月一回以上、安全衛生委員会を開催し、従業員の安全に関する審議を行います。
各事業所においてケガや事故の防止に努め、従業員が安心、安全に仕事できる環境を提供するためには何が必要なのか、具体的にどんな取り組みが必要となるのか話し合い、それを従業員にも共有します。
②機械、器材の定期的なメンテナンス、点検の実施
非常に初歩的なことではありますが、職場において、ベルトコンベアーや重機、トラックなどの大型車両、その他器材を扱う場合、定期的なメンテナンス、点検を実施します。
また、それらの配置や取り扱いに関しても注意が必要で、スペースを十分に確保する、「侵入禁止」などのサインを設置し、注意喚起することも大切です。
③安全衛生研修、教育の実施
また、職場での安全意識を高めるため、社員向けの安全衛生研修や教育の実施も不可欠です。
従業員同士がお互いに安全に配慮することで、不慮な事故の発生やケガの防止につながるでしょう。
④ストレスチェックの実施
ストレスチェックとは、厚生労働省が作成した質問表を各事業所の従業員に記入させ、それを集計、分析することでストレス度合いを客観的に判断するための検査です。
2015年の労働安全衛生法改正により、50人以上の従業員がいる事業所ではその実施が義務付けられるようになりました。
もちろん、50人以下の場合でもそれを実施することによって、ストレスによる健康被害の発生の防止につながるでしょう。
⑤産業医、保健士の社内配備
鬱や適応障害、その他精神障害の対処に関しては、素人だけでは限界があります。
よって、社内に産業医や保健士などの専門家を配備することも大切です。
何か不調を感じたらすぐに相談できるような環境を整えたり、専門家の指導のもと、研修を実施したりするのも良いでしょう。
まとめ
世の中の流れとして、以前よりも社会全体が労働者の健康に関する意識が高まってきています。
もちろん、余程の意識の低い会社や、ブラック企業と呼ばれるようなところでもない限り、大きなケガや事故の発生は滅多に起きるものではありません。
しかし、起きてからでは手遅れ、
ハラスメント、ストレスによる精神衛生に関する問題はどこの企業でも十分に起き得るため、十分な対策をしておくようにしましょう。